透かし印刷

35年前、私が印刷業界に入ったばかりの頃、板橋のこの近所で大量の

偽札を造って逮捕された印刷屋が居ました。7億位造っていたような記

憶が有ります。紙は近い物が有りますので版と透かしが解決すれば何と

か近い物が出来ると思いますが、やはり難しいのは版を作るという事。

そして決定的に難しいのが透かし印刷です。15年ぐらい前、2月から

3月にかけて卒業証書を下請けで印刷していたことが有ります。卒業証

書は、特殊な用紙に中心に大きく学校のマークが透かしで印刷されてい

ます。この透かしを印刷している会社が福井県のある会社だけで、支給

される用紙が実数プラス10枚ぐらいしか無く、この仕事が入ったとき

は緊張するのです。予備が無くて、厚紙であり、墨汁に合わせるために

黒々と刷らなければいけないという事。ヤレを出したら透かし印刷に1

か月以上かかるので卒業式に間に合わない。それは卒業式に卒業証書が

無いという事。私一人のために何百人かのハレの舞台が台無しになると

いう事。高々1万円ぐらい仕事のためと考えたらとてもじゃないけど合

わない物でした。でもどんな仕事からも逃げないと云う姿勢が職人とし

ての私を鍛えてくれたのです。お札刷るのもドキドキしたでしょうが私

は、もう一つの透かしをする事で今でも印刷屋をやっています。