新説「Kは見当のK」

カラー印刷では、シアン(青緑色)、マゼンタ(赤紫色)、イエロー(黄色)、そして

ブラック(黒色)の4色のインクを使ってすべての色を再現する仕組みになっています。

それぞれの色版の頭文字を取ってCMYKと表記するのが一般的です。CMYKのKはブラッ

ク版ですが、K版と呼ぶのは「Key plate」あるいは「Key color」の頭文字が由来だと

するのが有力な説とされています。

なぜCMYBと表記されなかったのかは、BlackのBが加法混色(光の3原色)による色表現で

あるRGB形式のBlueと混同しないように、BlacKの末尾のKを使うようになったという俗説

を信じている人もまだいるかも知れません。

筆者はかなり長い間それを信じていました。特色Brownとも被るからと尾ヒレまでつけて。

さすがに日本語由来のKuroの頭文字だというのは、笑い話にもなりませんが、日本での

「Key plate」の発祥は、江戸時代に大流行したカラー印刷である「浮世絵の木版画」で

使われた「主版(おもはん)」と呼ばれた墨版のことを指します。

つまり、見当合わせの鍵になるブラック版に当たります。見当合わせのための版だから、

K版というワケです。(信じるか信じないかはあなた次第)

それはともかく、80年代後半から90年代初頭のDTP黎明期以前には、CMYKという呼び方は

存在せず、日本では1919(大正8)年にプロセスカラー印刷が導入され「藍版、紅版、黄版、

墨版」と呼ばれていました。米国ではさらに10年さかのぼり、1909(明治42)年頃にオフ

セット平版で、原画と同じ色彩に刷ることができる製版法が発明されたとされています。

その頃、「Key plate」なる概念が存在したとは思えないので、ブラック版をK版とは呼ん

でいなかっただろうことが容易に想像できます。

そして時代は下り、デジタル製版においてCMYKの分色は、世界初のDTPソフトであるアル

ダス社のPageMaker(ページメーカー、1985年発売)が、割と早い時期にカラー対応した

段階でカラー印刷のブラック版をK版と表記していたと思われます。ページメーカーの開発

者(5人のプログラマー)たちが、「Blueと被ってる、どしたらよかんべ?」と言いつつ苦

肉の策で、Black版をK版と呼ぶことにしたかは定かではありませんが。

ちなみに「DTP(DeskTop Publishing)」というワードは、アルダスの創設者ポール・ブレ

イナードが、その概念とともに生み出した造語のようです。

パイオニアとして大成功を収めたページメーカーでしたが、後発のQuarkXPress(クォーク

・エクスプレス)の追随やマイクロソフトのワードを代表とするワープロソフトの高機能化

に影響され、開発中だったInDesign(インデザイン)とともに、アドビシステムズに会社

ごと買収されることになった経緯はよく知られるところです。

さて話を戻して「CMYK」ですが、米国発祥であり現在では世界中の印刷業界に普及してい

ますが、なぜかフランスだけは「CMJN」と表記されます。JはJaune(ジョーヌ=黄色)、

NはNoir(ノワール=黒色)とフランス語で呼ばれるのです。フランス語版のイラストレー

ターやフォトショップなどDTPソフトでは、カラーパレットの表記が「CMJN」になっている

のが確認できます。物事にこだわるフランス人気質が垣間見える気がします。


フランス語版フォトショップのカラーピッカー
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