和紙の印刷

谷あいの港町では通りから少し外れるとすぐそばまで山が迫っていて

山に入ってしまえばそこは我ら少年たちの遊び場であり、秘密基地で

あり、収穫の引き出しがそれぞれの秘密のうちに仕舞いこまれた処で

した。腹を空かした小さき獣は、先ず、びわ、ぐみ、野イチゴ、秋の

ザクロ、アケビ、そして時々畑のみかん。を目指しそしてそれらを移

動しながら次なる獲物、三俣、楮を探し求めるのでした。三椏、楮は、

子供でも獲れるこずかい稼ぎ。一抱えの三椏を煙草屋のお婆ちゃんの

所に持って行くと50円、100円になりました。三椏、楮は和紙の

原料になります。考えたら私は50年も前から紙と係わっていたので

すね。直径3センチほどの木に厚みが2ミリぐらいの薄皮が在ってそ

れが和紙の材料になるのですが、芯の樹から皮をはぎ取って纏めて持

ち込んでいました。一番外側にある茶色い樹皮まで綺麗に取って持ち

込むともっと値段は付けてくれるのですが、採ったばかりの生木では

簡単には取れません。ましてや、腹を空かした小さき獣にそんな時間

が有ろうはずも有りません。和紙の原料になるのは、三椏、楮、雁皮、

これらを細かく繊維状に潰してほぐし、とろろ葵から採った粘材を加

え漉板の上で水に漂わせながら均一に均して干せば和紙は出来上がり

ます。技術も道具も担い手も極端に少なくなっていて、これらを完ぺ

きに揃えて和紙作りの挑んでいる方は、本当に少なくなってしまいま

した。ほんの50年前でも左程採れるものではありませんでした。無

計画に腹を空かした浅慮たちが片っ端から抜いて行くのですから、絶

滅するのは時間の問題だったでしょう。今ではある場所でそれ様にし

っかり栽培している筈です。自然のままを尊んだ手漉きの和紙と機械

式の和紙が有ります。機械式はもう、三椏、楮、雁皮でさえないです

ね。木材パルプに和紙らしい風合いを出すために繊維の長い針葉樹の

パルプを多く入れるようです。和紙の種類では、楮紙、奉書紙、局紙

雲竜紙、鳥の子紙、大礼紙、民芸紙等。和紙はオフセット印刷が出来

ません。現在のオフセット印刷機は、紙をエアーを使って吸盤で持ち

上げて、一枚一枚動かしています。ほとんど用紙には表面に加工がし

て合って空気が抜けない様になっています。和紙にその様な加工をす

ると和紙らしさが無くなるのか、その様な処理をしてありません。エ

アーで吸う事が出来ないので紙が移動しません。またブランケット転

写時に紙剥けが起こります。これも何とか出来ないか、印刷機に工夫

したり紙に工夫したりいろいろと挑戦しましたがやはり無理でした。

昔の機械はまだいろんな細工が出来ましたが今の物は殆んどその様な

ことは出来ません。和紙に印刷となると殆んど活版印刷か箔押ししか

ないので、色々な用途は限られてきます。それでも紙と印刷に拘った

出来上がりは、今は又新鮮なものになって来ています。

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