特練インキ

チラシやパンフレット、カタログなど写真を多用する印刷物では、カラー印刷が主流です。カラー印刷の場合は、プロセス4色インキを使います。これは、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローのカラー印刷用のインキです。各メーカー殆ど変りない決まった色になっています。澱んだシアンやマゼンダにすると澱んだ世界が再現されます。そんな世界は見たくない、あくまでも我々が視認している通りの世界が写真として再現されていないとリアルな情報ではなくなるからです。ある意味恣意的な芸術世界になってしまいます。コミック系の印刷屋さんではマゼンダを蛍光ピンクにして4色印刷して特殊効果を狙ってお客様に支持されているところもありますが、あくまでもそれはイラスト特有の遊びですね。シアンを蛍光グリーンで、マゼンダを蛍光ピンクで風景写真を印刷したことがありますが、世界が捻じれてしまった様な違和感のある風景が出来上がりました。今はカラー印刷全盛なので、特色インキと云うモノを目にすることがとても少なくなりましたが、まだまだ地味-に特色インキは使われています。たとえば本の表紙などの単色印刷。いつもカバーが掛かっていて脱がした表紙を目にする事はあまり無いかも知れませんが、カバーがカラー印刷だと表紙は特色です。あと帯も特色という事が多いですね。時代の変遷でまだカラー印刷がとても高かったり、無かった時代は特色単色刷りだったり多色刷りでした。私は封筒や伝票も刷っていた時期もありますが、大体特色印刷です。特色はDICナンバーやパントーンナンバー、東洋の色ナンバーで指定されました。特練用の基本色30色がありまして、そちらを決められた割合で混ぜ合わせると決まったDICナンバーになります。鉄で出来た肉板でへらを使って混ぜ合わせます。

大体出来たかなと云う処でコート紙の紙端にインキを少し取って、叩いてDICナンバーと付け合せます。いいかなと云う処でインキ壺に入れてローラーにインキを巻いて実際に刷ってみます。色が違ったらインキローラーのインキを洗って壺のインキを出して何かのインキを足したり引いたりして調合を繰り返します。出来ないときは1時間以上係る事がありますが、出来るまでやり続けなければなりません。普通前回と同じようにと云う指示がありますので、前回の色が最初のDICナンバーからずれているとそのずれた分を探さなければいけません。営業マンから職人になった当時は、延々と色を練っていました。これは印刷職人の基本です。これで紙が色つきだったらまたまたヤヤコシイのです。この作業が忍耐心を育てると共に、色に関する感性を育てるのです。特色を見ただけでどんな色がどんな割合で入っているか想像できます。ここがカラー印刷に効いて来ます。特練インキ作りが上手い職人は、カラー印刷も上手い。独特のセンスが在るのです。職人を採用するのに美術館に行ったり写真集をよく見るという趣味の人を選んで採用していましたが、そこでは無いです特練ですね。特色インキは、時代を映します、心の色を表します、ある思想を表現します。リアルなカラー印刷より引きながら象徴的な表現が出来るというのがレトロ風味の面白さを出して呉れます。