第32回 林忠彦賞 受賞!
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写真・文:奥山淳志
エスキース:井上弁造
装幀:Sakura Studio
発行者:奥山淳志
サイズ:W225xH300mm
頁数:176頁
詳しい印刷・製本仕様はこちら→https://inuuniq.co.jp/photobook/benzo-esquisses-1920-2012.html
著者サイトhttps://atsushi-okuyama.com/
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1920年に北海道で生まれた井上弁造さんは、2012年に92歳で逝くことになる。
遠い少年時代、北海道開拓の過酷な生活のなかで絵を描くことに目覚め、通信制の似顔絵講座からはじまった絵描きへの思いを、弁造さんの人生すべてを振り返ることができる今から名付けるとするならば、夢としか言いようがない。
人生は思い通りにいかないことの方が多い。誰の人生にもあることだが、弁造さんも結局、自らの夢を叶えることができなかった。一生を通じて絵を描き続けたにもかかわらずたった一度の個展を開くこともなく逝ってしまった。果たして、そのような人を"絵描き"と呼んでいいものかと迷うときもある。
そんなとき、僕は決まって弁造さんが暮らした小さな丸太小屋に遺されていた膨大なエスキース(習作)を思い起こす。晩年の弁造さんはエスキースばかり描き、絵を完成させることをしなかった。「自らの理想とする絵に近づくために」というのがその理由だったが、執拗にエスキースを描き続けた弁造さんの姿を思い返すと、僕には別の目的があったのではないかと思えてくる。弁造さんは最期まで切実な思いを持って絵を描き続けるために、最期まで絵を描くことを愛していると言い放つために、絵が終わりを迎えることを認めなかったのだと思う。
弁造さんがいなくなって今日までの11年間、僕は変わることなく弁造さんが遺した庭に立ち、「弁造さん」という存在を僕のなかに取り込んでいった。僕はそうすることでしか、弁造さんの生きることが遠ざかるのを防ぐことができなかった。でも今思うのは、庭と絵を愛し続けたこの人生はどこまでいっても弁造さんのものだ。この気づきがカメラをエスキースに向けるという行為の始まりでもあった。
今日、エスキースを弁造さんに返そうと思う。
2023年8月5日
雫石にて 奥山淳志
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本書サイトより引用
benzo esquisses 1920-2012 (atsushi-okuyama.com)
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2023年8月1日 第1刷発行