武田百合子「あの頃」「富士日記」

2020 年 7 月 1 日 水曜日

富士日記は面白いと云う人が多い。しかし読んでも面白く無いのです。

カレーライス食べた。ビール1ケース持って来て貰った。とんかつ食

べて寝た。ガソリンスタンドのオジさんが菓子をくれた。と云う様な

記述がずっと続きます。ここで何が面白いのだろうと投げ出すのです。

もう十年以上本箱に差し込んであって、誰かがエッセー等で言及する

たんびに取り出してきて読むけど、理解できないまま「ふん!」と元

に戻すと云う様な事を繰り返してきた。「あの頃」は、武田百合子の

その文章力が縦横に堪能できるエッセー集。そこに「富士日記」の生

い立ちが書かれて在った。泰淳が執筆の為に作った富士山荘で百合子

にここに来たら、日記を付けたらどうだろうと薦めたもの。本人は乗

り気では無かったけど兎に角書き始めた。富士日記(上)の最初の方

は手習いですね。未だヨチヨチ歩きだ。それが「あの頃」になると凄い。

何故か本の最後の方に在った「櫻の記」から読み始めた。日曜日の夕方

だったけど、読み終えて酒飲もうと思ってカミさんの後ろ通って冷蔵庫

明けて酒瓶取り出したところでぼろぼろと泣いてしまった。凄い書き手

です。こんなに凄い人を「ふん!」と云って本棚に閉じ込めていた。

武田泰淳は、百合子の文才を見抜いていて書く事を薦めています。元々

の素質に泰淳の口述筆記が乗り移って本来の天衣無縫の軽身のままに文

才が花開いている。久々に夢中になれる読み物です。


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