シンクの鯉

2018 年 6 月 1 日

3年前の街道マガジン創刊号で見たのが写真家白石さんとの出会いでした。

富士吉田月江寺近くの裏通りで手押し車のお婆さんに声を掛けられて後を

ついて行くとそこは店仕舞いしたお寿司屋さんだった。カウンターの奥の

大きなシンクの中にその鯉はいた。蛍光灯を付けると鯉は身を翻し流しの

水を揺らした。と説明文が有りました。そしてこの写真。この一発で私は

やられちゃいました。10年ここで飼っているそうです。富士吉田と云う

場所、元お寿司屋さん、お婆さん、シンク。ぞくぞくするほどの色気を感

じました。このシンクの中で何万匹の魚の首が刎ねられたのでしょう?

街道グループは昨日から大挙して韓国に展示会のために出向いているそう

です。写真も撮るようで6月8日にいったん戻って、街道マガジン韓国編

印刷してとんぼ返りでまた韓国に戻るようです。韓国の報告が楽しみです。

喋る力、聴く力

2018 年 5 月 30 日

目白駅から少し遠いのですが、山手通り沿いにある美容室「レック

ショップ」は、もうかれこれ20年ぐらい頭をお願いしている散髪

屋さんです。一応店は美容室。美容室に行っているとあまり言いた

くないので私にとっては散髪屋さん。ここは、個性的な客が多いと

ころです。古道具坂田の坂田さんだったり、ライターやプロデュー

サー等々。

ここに先日出した「未明02」を置いているのですが、坂田さんに見

て貰ったら「中々、良い本です。」との言葉を頂きました。散髪す

る戸井田君から坂田さんの気さくさ等色々訊いてはいるのですが、

恐れ多くて「古道具坂田」には足を踏み入れることが出来ていませ

ん。なんと云っても当代随一の目利きの人です。雑巾一枚を佇まい

だけで何十万で売り切る人です。私なんぞ簡単に見透かされてしま

います。それで本題は坂田さんでは無くて戸井田君の話です。私も

長く通っているのですが、彼とはウマが合うのです。間の採り方と

云うか相槌の打ち方と云うかさり気なく訊きながら促す話の持って

行き方と云い、質問の仕方と云い、気持ちよく大笑いするタイミン

グと云い上手いなと思わせないで、いつの間にか調子に乗らされて

いる。中々の教養を持ちながら少しもそんな素振りを見せない。頭

の髪を刈られながら頭の中まで綺麗にされているようです。喋るより

喋らせる方が遥かに難しい芸当です。坂田さんも多分喋りには自信が

ある筈ですが、そんな坂田さんを手玉に取っているのが戸井田君なん

ですね。


昔日の客 関口良雄

2018 年 5 月 29 日

腰を据えて読み始めたら止まらなくなって一気に読んでしまいました。

昭和53年に最初の出版が在ってこれは8年前の復刻版でした。この

復刻版が1万部売れたと聞いていましたが、読みながらこれほどの本

が1万部しか売れないという時代を何という事なんだろうと少し落胆

しながら読んでいたのです。40年前に出してまずまず売れたモノと

訊いてそうだろうと納得したのです。交遊録もさる事ながら、大変な

名文家の人ですね。「倅 三島由紀夫」を出したお父さんの姿が寂し

いですね。あの三島由紀夫を倅呼ばわりですからね。明治生まれの

膂力を感じさせます。徴兵忌避の話からあの日に繋がって行く一本の

道。近所の婆さんの涙が切ない。並べている本を見れば本屋の力量は

判ります。作家が欲しがる名著を扱っていたのでしょうね。なんでも

ない本でも両隣の彩で欲しい本になったり、読まなくても良い本にな

ったり。目利きの本屋の見識はある意味作家以上であり、作家もそこ

はシッカリ弁えているのですね。どんな作家も先ず本屋で習う事から

始めます。喋れて歌える人はどんな仕事でも成功するような気がしま

す。

2020年代は全体の時代?

2018 年 5 月 24 日

1960年代は、言葉の時代。

1970年代は、実践の時代。

1980年代は、写真の時代。

1990年代は、アートの時代。

2000年代は、世界が繋がった時代。

2010年代は、個人が繋がった時代。

2020年代は、脱個人の時代?

芸術や表現と云うのは、まだ知らない他者と出会う為のツール

だったのだけど、何もしなくても繋がってしまう為、必要性を

感じなくなってしまったと云う錯覚がありますが、ホントにそ

れは全くの錯覚で、むしろ本当の距離はもっと離れてしまいま

した。ここからが真のアール・ヌーボーの幕開けなんだと思う

のです。そうでなければここから始まるのは、全体意思への参

加という事になるように思います。私はそうはなり得ないと考

えるので、古いアイテム、詩と写真とアートをもう一遍引っ張

りだす事に加担している気がします。

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