実用の本、趣味の本
2018 年 5 月 23 日 水曜日先週の編集会議でたまたま、夏葉社の「昔日の客」と云う本の装幀につい
ての論評があり、そう云えば昔買ったなと頭の片隅に引っかかったのが在
って、棚からひっぱり出して読み始めたのでした。これは装丁や佇まいや
タイトルに惹かれて買ったは良いが数ページ読んだだけで投げ出したもの
でした。大森で古本業を営む方の回想録でもうそれはキラ星の如くの大作
家先生方との交友録でもあり、文学好きにはたまらないエピソードの数々
なのです。いま読み返していますが本当に面白い。でもこころはときめい
て入ないのです。もう随分前から小説が読めなくなっています。昔日の客
は回想録なのでフィクションでは無いのですが、普遍に繋がらない個別の
経験譚から丁寧に本質の部分を探り取るという地道な作業が出来なくな
っている自分がいます。時間の流れに影響されすぎている。頭を切り替え
なきゃ駄目だとも考えているのですが、時間が無いと思い込んでもいる。
将来に対する不安がそうさせるのでしょう。勢い歴史書や人類史、文明論
欲望の形など実用的な本ばかり読むようになっています。「原民喜」や
誌とアートと写真などを取り扱う叢書を発行している者としては、実利
的過ぎるのはやや問題だと考えますが、経営者としては致し方ないかと
考えたりもします。この本は、装幀がシンプルで素晴らしいですね。
イニュニック未明編集室は、特別な美装本を丁寧に作って新しい文芸書
と云う地平を切り開きたいと考えています。