製本屋の親父さんの50年
2014 年 12 月 3 日 水曜日昨日、納期が早まったせいである仕事の納めに間に合いそうに
ないのである製本屋さんに手伝いに行きました。
そこの親父さんは片手が不自由なので納期のあるものを
お願いしています。
一緒に作業しながら、何とはなしに不自由な手の事を尋ねると
義手だそうです。
「もうかれこれ、50年になるかなぁ。あれは夏の暑い日だったなぁ。
窓開けてたんだよ。風が吹いて紙がめくれたんでな刃の向こうに
手突っ込んで直したんだよ。昔の断裁機は、押さえも断裁刃も
足で操作するからな、足元にレバーがあるんだよ。丁度その時、
仲間のわけぇーのが、紙を運んできてな。断裁機の足元にどさっと
紙を落としちまったんだ。俺は丁度手ぇ、突っ込んでっからよぉ、
あっという間にバッサリよ。」片手のままで製本の職人を50年。
凄い人生だなと心底驚きました。でもまだ話は続きます。
「それでな、そのわけぇーの。心臓悪くしてしまってな、6ッか月後に
心臓まひで死んでしまったんだよ。」
「あの時な、風がな、風が吹きさえしなけりゃ、こうはならなかったんだ
けどなぁ。」
死んじゃったその人もその人だけど、それをじっと考え続けている
親父さんもつらい。人が生きて行く、働き続けていくと云うのは
しんどいことだなとつくづく考えさせられました。
飄々と「風だ」と言い切れるところまで50年。
何という重さでしょうか?