本が開いて話が広がる
2014 年 5 月 30 日 金曜日「寿都五十話」 A5判 本文784頁。厚さ46mm。重さ900g。
並製本の厚さの限界は大体、50mm位です。バインダー機のメーカーに
よって40mmの場合もありますし、45mmの場合もあります。
本文が厚いと綴じを強くするために背中のノリを多くします。すると綴じ側は
強くなりますが、開きの悪い本になります。その辺りを防ぐために本文用紙に
柔らかいラフ書籍用紙を使ったりしますが、画期的に本が開きやすくなると
云えばPUR製本です。これはバインダー用ホットメルトを従来型のEVA系
ホットメルトからPUR系ホットメルトに変更したものです。ポリウレタン系の
樹脂を使います。耐熱耐寒性に優れ、高い強度を持ち、環境にやさしい。
ヨーロッパでは10年前から普及し、アジロ用ホットメルトと云えばPURが
一般的です。少量で強い接着性があり、尚かつ固まっても糊が柔らかいので、
しなやかに本が開きます。EVA系ホットメルトは、180度まで加熱して製本
します。白くてかたいチップを溶解タンクに入れて溶かして使います。
作業が終わって冷却しても翌日、加熱すればまたそのまま使用できます。
一方、PUR系ホットメルトは、120度の加熱で使用できますが、作業が
終わって一旦、電源を切ってしまうと固まってしまい、それを翌日溶かしては
使えません。一日の作業が終わるとタンクを綺麗に洗浄しなければいけません。
その辺りが良いことづくめにも拘らずPUR製本の日本国内での普及が滞って
いる理由です。材料代と手間が掛かる以上に技術的な生産性の壁もあります。
たとえば、真っ黒い見開きでしっかり開くと中心にホットメルトの白が見えます。
PURが適さないページレイアウトもあります。
オンデマンドで表裏全面印刷の写真集などでは紙の表面でトナーが固着する
ため、1枚1枚の紙が固くなり本は開きにくくなります。こちらなどはPUR製本が
適しているパターンです。分厚い本、オンデマンド印刷の本などが適している
ように思います。金額も割高になります。でも本が開くのは魅力的です。
「寿都」。北海道はニセコのすぐ近く、積丹半島の根元の向こうには
泊原発が見えるところ。ニシン漁のころには有名だったようですが、
今はただ、歴史の堆積に忘れ去られようとしている町かもしれません。
山本さんは気象庁に勤めながら、たまたま勤務することになった寿都市の
歴史を調べるうちにそこに大きく広がる先人たちの足跡を採集し、昔語りや
言い伝えなどを採録されました。偉人の自慢話より市井の人々の楽しかった話、
悲しかった話のほうが私は好きです。
一人一人の小さな生活のエピソードが街の顔になっていくのですね。
明治のニシンの大豊漁。戦前のツェッペリン伯号の飛来。米軍の空襲と
東海丸の沈没。小学校の運動会のむしろ小屋。北海道の小学校の運動会は
祭りなんですね。テキヤの屋台やパチンコの遊技場が並ぶようです。
運動会の休憩時間に真っ白い小学生が一列になって青空の下、一斉に
パチンコを打っている姿というのは今では考えられないぐらいシュールです。
町名の由来はアイヌ語で「シュブキペツ」(芽の多い川)
こちらの本は、イニュニックの出版部門「書肆 山住」から出しております。
ISBNコードをお貸ししただけですが。 アマゾンで販売中。