空の車いす
2021 年 6 月 14 日 月曜日先週、会議の時間、空の車いすを押す上階の奥さんが道を横
切っていた。昼過ぎに階段下にいらしたので、「そう云えば、
最近お嬢さん見かけないけど?」と訊くと「去年の9月に死
んだのよ」と訊かされた。8歳ぐらいでお爺ちゃん、お婆ち
ゃんと暮らす様になってかれこれ4年。弟と連れだって向かう
登校姿を朝晩言葉を交わしながら見送り迎えてきた。寂しげな
横顔だったけど、からかうと大人びた受けごたえをしてくれた。
マスクをしていたので奥さんの表情ははっきりと判らなかった。
「今年中学校だったの」と教えてくれた。下の工場を少し見て
製本工場に向う道でいきなり悲しみがやって来た。慟哭に近かっ
た。マスクをしていて良かった。週末はテニスとサッカーばかり
を見ていたけどぼんやりと彼女の死を考え続けていた。「さりと
ても、死ぬのはいつも他人ばかり」 朝方、ジョコビッチの優勝
を観ながらそんな言葉を思い出した。