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1937 辺見庸

2015 年 12 月 15 日 火曜日

今年前半、週刊金曜日で連載されていたもの。

いきなりぶすりと終わったので少しがっかりしていました。

ナーバスな問題なので論のすすめ方に神経を使います。

しかし、どんな地獄の所業を書こうとも一本の光明が無いと

陽の目は見れない。この連載だけでなく同時に並行して他の日中戦争の

日本兵を記録した読み物をずっと読んでいたので、戦後70年の今年は

とても精神的につらい年でした。この本は堀田善衛の「時間」をベースに

あの南京大虐殺を考察した本です。途中から辺見さんの父上に絡めて

中国での行いを我が事として書き進めて行ったとしても、やはり

そこだけですと冥闇のままです。10月に本になって上梓されると聞いて

ずっと置いていた週刊金曜日を全部捨てたのですが、読んでみて吃驚しました。

内容がほとんど書き直されています。今となっては確認しようがありませんが、

今年前半のどす黒い感情は湧いてこなかった。平易に読みやすくすっきり

書かれています。

さて私の父は、戦後は上海に長く残って国民党との交渉係でした。国民党が

台湾に移るときやっと帰ってきました。その時の栄光が忘れられない人でずっと

自慢話を聞かされてきました。亡くなる1・2年前、江沢民が全人代で演説して

いるのを見て「あの戦争に勝っていれば私もこれぐらいまでは行けた」と云います。

私の半生はほとんどこのような態度の父との戦いに費やされました。ほとほと、

嫌になった。とにかくそのような人だったので、あの15年戦争の大体の作戦、

結果、理由は教わっていました。重慶は崖に囲まれた要塞だったので空から

爆撃せざる負えなかった。南京の話は2回程聞いたことがありましたが、それとなく

かわされました。亡くなる2週間前、もうこれで最後だと長く二人きりで話はじめると、

また戦争中の話に舞い戻り始めました。もう一回南京の話を聞きました。父は

1週間後に入ったおじさんの話として教えてくれました。「南京に入るまでの

道の間30キロぐらい、道路の両脇に山のように積まれた死体がずっとうず高く

繋がっていた。」上海から南京は約300キロ離れています。揚子江で繋がった

平坦で肥沃な土地には何百万もの農民たちも住んでいました。

日本軍が上海から進軍して来たら、それらの人たちは当然、国民政府がある

南京に逃げ込みます。基本的には南京の5万人だとか20万人だとか30万人

等大した意味はありません。東南アジアを含めた2000万人を超える人々が

どの様に殺されたのかが重要です。そしてさらに重要なのがそのような行いに

ついての反省と鎮魂の気持ちだと思います。私自身に責任は無いとは思いません。

母は安物の文化包丁を柄と同じぐらいの長さになるまで研いで使っていました。

私も包丁研ぎをさせられました。「包丁は研ぐもんじゃ」と云うのが父の口癖です。

禅問答のような話なのですが、それが今年になって初めてその意味を知って

慄然としました。父は軍刀を研いでいたのです。それらの技法や精神によって

私は育てられています。父の経験は全て私の中に入っている。

「1937」はさりげなく無視されています。本屋もあまり置きたがらない。

南京大虐殺の話を蒸し返してどうするんだという事でしょう。

でもあのことからは逃げられない。日本人だけが忘れることが出来ても刺さった

棘を揺さぶって思い出させる人たちがいます。

今年首相がポツダム宣言を読んでないという話がありましたが、多分知っては

いるけどとぼけたのです。ポツダム宣言の第6条と第7条にはとても重要な、

戦後のアメリカによる日本統治の道筋がちゃんと明記されています。

第6条、日本国民を欺いて世界征服に乗り出す過ちを犯させた勢力を永久に

除去する。無責任な軍国主義が世界から駆逐されるまでは、平和と安全と正義の

新秩序も現れ得ないからである。

第7条、第6条の新秩序が確立され、戦争能力が失われたことが確認されるまでは、

我々の支持する基本的目的の達成を確保するため、日本国領域内の諸地点は、

占領されるべきものとする。

自分たちの手であの戦争を遂行した勢力を助けだし、温存しておいて占領の理由に

しています。それと同じで反省していないことや、無かったと言い張ることは現在の

状況を補完する事に他なりません。心より反省して平和を愛する民族だという事を

本気で表明しない限り、今の状況は続きます。

「1937」はあの「1984」以上に我々日本人にとって重要な本です。辺見さんは父上の

狂気の底まで降りて行ってこれを書いています。命がけで書いたものが無視では、

それは報われない。

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