明暗

2011 年 10 月 21 日 金曜日

先週の文春で椎名誠さんの赤マント読んでいたら、室内の写真のフラッシュに

ついてひとくさりありました。ある居酒屋で写真撮影とインタビューを受けた

のだが、カメラマンがやたら大きなフラッシュで延々とバシャバシャ撮っている

ので気が散って落ち着かなかった。最近のデジカメは、あまり光が無くても

それなりに撮れるし、後でいくらでも加工はできるというようなことを述べられて

おりました。椎名さんも写真を撮られるのでしょう。でも印刷屋から言わせると

暗い写真を明るくするのと明るい写真を暗くするのでは、写っている情報の

量が違います。また加工の幅が大きく違います。

今年の4月に岡山県の湯郷温泉の旅館「季譜の里」のパンフレットを製作

いたしました。えー、あの我らが「なでしこ」がキャンプを張った、あの宮間君が

いる湯郷です。先日ご依頼のデザイナー様から、あのパンフレットが「地域発の

デザイン」(ピエブックス)に掲載されましたという知らせがありました。わざ

わざ連絡していただき、それもとても嬉しかったのですが、とにもかくにも大変

苦労した本だったのです。旅館のパンフレットなのですが小説仕立てになって

おりまして、情感を高めるために写真もそれなりに陰影の濃いもので、インク

濃度も350%を超える写真がとても多かったのです。紙がG-プラン。これも

とても乾きの悪い紙です。今年の4月は、節電で谷崎の「陰翳礼讃」などが

改めて評価されるような雰囲気もあり、写真のトーンは濃い目と云うのがちょっと

した流行りでした。5000冊をゴールデンウィークまでにと1週間ぐらい前に

ご入稿いただいたのです。表紙は、雁垂れ表紙です。そしてカバーが付きます。

結局間に合わないのでUVで刷って納めました。

で、半年経って全部捌けてしまいまた5000冊のご注文を頂きました。

今回は、事情をお話して、写真の濃度を300%以下になるよう画像を補正させて

頂きました。写真を触りだして分かったのですが、夕暮れや夜の写真は、ちゃんと

光を当ててしっかり細部を映しこんで、それから雰囲気に合うように暗くしてある

のです。シャドウを明るくしていくと見事に隠れていたものが現れてきます。

全体を綺麗にコマーシャルフォト的に創り込むばかりでなく隠すことによって

奥行きと余韻がにじみ出てくるということもあります。

今回の出来上がった新しいパンフレットを初めこそ満足げに眺めていたのですが、

やはり、暗い方がエッチです。インキの濃度との関連もありましたので、致し方

なしとは云え、やっぱり印刷は難しい。

椎名さんは、荻窪のラーメン屋「丸新」でしょっちゅう見かけていました。

まだ「さらば国分寺書店のおばば」を出したばかりのころ。

「大もり」という低い声がカッコよかったんです。

湯郷温泉は育った兵庫県の相生からすぐのところ。良いところです。

上へ