AKIHABARA GHOST
2025 年 8 月 9 日 土曜日
かって秋葉原には不忍池と幻のお玉ケ池を結ぶ川が流れていて、その周囲
には淋しい沼地が点在し、そこには寒さと湿気が立ち込めていた。
江戸時代の神田川治水工事が完了し、明治期になると原っぱだったこの土
地に鉄道の駅が計画される。これに伴いそれまで火災や争い事からの鎮護
で祭られてきた秋葉の杜がこの広原から遷座すると、その名前だけを残し
た貨物駅が建設され「秋葉原」の地名がこの地に根付いた。やがて戦後の
焼け野原から闇市を経て秋葉原は電気街と呼ばれるようになり、次第に利
益と化学がこの土地を支配するようになる。そして秋葉原は人間の更なる
欲望を刺激する街へと変貌し、古くからの迷信などは完全に排除された。
だが、その煌びやかな街の光が強まれば見えないはずの影も濃くなる。
AIやバーチャル技術が虚像を広め、過剰に興奮を煽る商品やコンテンツが
溢れた今の時代、この街を彷徨いながらどこか「幸せとはこんな世界か」
と感じることはないだろうか。行き過ぎた消費社会の中で人々が人生の豊
かさを見失った時、その群衆の足元には小さな亀裂が生じ、そこからこの
街がかって沼地であった頃の寒さと湿気が漂い始める。生ある者を支える
真実は、目に見える物だけではない。しかし、今ここに集う人々の霊的な
モノに対する尊大さ故だろうか。その小さな亀裂の裂け目から淋しさに怯
えたゴーストが、現代の作られた夢を求めてこの街への扉を開こうとして
いるのだ。 イニュブック販売