闇夜の中で

2016 年 5 月 27 日 金曜日

夜10時ごろ、アイポッドで音楽を聞きながら歩いていると女性の話し声と笑い声が

時々聞こえるのです。雑司ヶ谷霊園の中です。後ろを振り返っても誰もいません。

しばらく、歩いているとまた微かな話し声と笑い声が聞こえるのです。

いよいよ出たなと思っていたのですが、家に近づいてもまだついてきます。

明るい街に戻ってきてなんとなくアイポッドを見ると、ヴィレッジヴァンガードの

ジャズライブだったのです。マイクの近くに座った御婦人二人が演奏そっちのけで

ひそひそ声で喋っていたのですね。曲は確認しませんでした。それから少しあと

少し気になってどの曲か探したのですが、判らないのです。ご婦人お二人のささ

やきと笑い声が入った曲を見つけられないのでした。墓場の緊張が聴覚を高めて

くれていたのだと思います。

参っちゃった時やムシャクシャするときは、少し遠回りして、雑司ヶ谷霊園の中を

歩いて帰ることがありました。ネット印刷を始めて急に仕事が増えてきてそれぞれの

分担がうまく回らなかったりミスが続いた時は、落ち込んで憂鬱になったりします。

そのような時は、もっとストレスを掛けるわけです。若いころは良くプールに泳ぎに

行っていました。泳いで泳いでへとへとになるまで泳ぐのです。すると大抵どうでも

良くなります。上手くいかなかったり、袋小路入り込んだ時には、簡単には気分は

変わらないのですから、その気持ちや考えを支える体そのものの状態を少し変え

たりしてバランスを取っていました。

来週から始まるの山谷佑介さんの写真展が夜の家を撮った物でした。

3月からイニュニックで働き出した松本孝一君も写真をやっていて来週

から新宿のギャラリーで個展を開くそうで、やはり夜の写真だそうです。

目が毒されているのでしたら、目にブレーキを掛ける。制限を掛ける。

すると見えなかったものが見えてくるのかもしれません。

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山谷佑介&松川朋奈+沢渡朔

2016年6月4日~7月2日 11:00~19:00(日月休)

オープニングレセプション:6月4日(土)18:00~20:00

ユカ・ツルノ・ギャラリー

東京都江東区東雲2-9-13-2F

TEL:03-3520-1700

www.yukaturuno.com

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風薫る5月

2016 年 5 月 21 日 土曜日

緑が深い、風が薫る、今月は「香草」です。

写真が鮮やかで思わず見入ってしまいました。

8月から「沖縄食べる通信」が始まります。

山河故人

2016 年 5 月 16 日 月曜日

ジャ・ジャンク―監督作品。「山河ノスタルジア」

山西省フェンヤンを舞台に25年の道。15年目、10年目。

現在を通り過ぎて10年後の未来まで話は進みます。

主人公の女性教師、タオ。タオと云うからどうしても老子の道教

タオを思い浮かべてしまいますが、中国での発音はダオですので

やはり、映画の中でも云っているように波のタオなんだと思いますが、

敢えて映画の中で中国人同士が波のタオだと説明しているのが、やはり

中国以外での言い方、老子のタオを意識させようという意図が感じられないこともない。

ジャ・ジャンク―の映画は、「罪の手ざわり」を見ています。

横浜の「シネマ893」を主宰する小島さんが2014年の外国作品、ベスト1と

選んでいるのを見てDVDで借りて観ました。社会問題をハードボイルドなタッチで

撮っていて、中国の格差と労働者の現実の酷薄さが際立っていた。

でもやはりDVDでは集中してみることが難しい。細部がおろそかになります。

今日は中国で10年に渡る文化大革命が始まった日だとか。下放、山西省は

「延安の娘」で描かれていた世界ですが、森もない林も少ない、ただ剥き出しの

大地ばかりが広がるところです。川も化学薬品で汚染されています。

映画は、ペットショップボーイズの「GO WEST」の曲に合わせて、登場人物

30人ばかりが、ディスコ風に踊るところから始まります。「罪の手ざわり」とはまるで

違います。

1999年の正月、2000年の正月?明日から華やかな新世紀が始まるという祝祭から

映画は始まります。豊かな感情が丁寧に描かれていく。交差する道、離反していく道、

帰ってくる道。縁が社会を創り、道が人生を創っていく。それらを包み込んでいるのは

大きな山河、しかしその山河はある場所にあるわけでは無く、それぞれの道の中にある。

重層的に重なったイメージの断片が自分自身の道と重なったとき、いつしかボロボロ

泣いておりました。映画を見ながら自分自身の歩いてきた道を思い返していました。

最後、タオが雪の中で一人、緩やかに冒頭の「GO WEST」を踊ります。

ここで、涙腺が全開になります。圧倒的な傑作。これほどの映画は本当に久しぶり

でした。私は、割と中国の人たちを知っているので、彼らの様々を抵抗なく受け入れる

ことができます。壁がない分、同じ道に見えたのでしょう。

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