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観察映画論 牡蠣工場

2016 年 2 月 25 日 木曜日

「カメラを持て、町へ出よう」

渋谷の映画美学校での講義録をまとめたものです。

最近の想田さんの発言等を目にして手にしてみました。

観察映画と云うスタイルだそうです。

観察とは、物事の状態や変化を客観的に注意深く見る事。

違う辞書では、事物の現象を自然の状態のまま、客観的に

見ること。ドキュメントに比べるとカメラは主観性を持たないで

監視カメラの様な状態で撮るのかなと思いました。

観察となると編集は出来ないことになりますし、時間軸をいじることも

出来なくなります。しかし、監視カメラでは映画に出来ない。

余程ドラマチックな場所にあるカメラだったら、面白いかもしれません。

読み終わってあれこれ考えたり、ツタヤで「選挙」などを探してみたり、

そんなことをしていたら、次の週、新作が上映されると知らされました。

「牡蠣工場」岡山牛窓、牡蠣の養殖場の話です。

それで先週、幕開けに行って来ました。渋谷シアター・イメージフォーラム。

初回上映、舞台挨拶付き。トイレの抜かりはありません。

知識の抜かりもないのです。8歳の時に引っ越してきた兵庫の相生は

カキの養殖をやっていたところで川沿いの家々では、ずらっと並んで

カキ剝きをやっていました。今でも鰯浜のカキや室津のカキは有名です。

室津から相生、坂越、赤穂、日生、牛窓までが大体兵庫、岡山の産地です。

そこから少し離れて呉から宮島へが広島のカキ一大産地です。カキを商う

親戚もいるので細かい情報は非常に詳しい。「牡蠣工場」のもう一つのテーマが

中国人研修生制度です。これはもうかれこれ20年ぐらい前からある制度です。

日本各地でいろいろと問題になっていて、広島の牡蠣工場では殺人事件も

起きたりしています。こちらもずっぽりズブズブまで深入りしていた世界です。

ずっぽりは私では無く父の話です。中国語が話せた父は、日中国交回復あたりから

また真剣に中国語を学び直して、市の中国語講座の講師をする様になりました。

相生はIHI石川島播磨重工と云う大きな造船所がある町で、周りに下請けの

小さな鉄工所もいっぱいあるところです。そこに研修生が一杯来ていたのです。

鉄鋼の仕事では怪我は付き物です。日本語が喋れない彼らと病院との通訳に

駆り出されるうちに、だんだん彼らの相談に乗るようになりました。家にも呼ぶように

なって中国の人たちの駆け込み寺の様な所になりました。11歳で日本にやって

来た少年に日本語と教科を教えて無事高校に行かせることが出来ました。

その彼は、アメリカの大学に行ったそうです。帰省するといつも誰か彼か来て

いました。直接話は出来ないのですが、研修生の内実はとても詳しいです。

満を持して観たはずなのに「この映画は、うかうかとは語れないな。」と云う

内容なのです。瀬戸内の海が死にかかっているという話は東北食べる通信で

知りました。主人公は宮城のカキ業者の人で震災を逃れて移り住んできた人です。

この映画はうかうか語れないのではなく、語りたくない話なのです。事実ではあるが

不誠実です。牛窓の人に対してもそして作家の作品自体にも。中途半端に逃げては

いけない。逃げのシーンは、要らない。それから、この映画に映っていない重要な

要素があります。良く観察すると分かります。ヒントは目に見えないもの。

「皆さん、ツイッターやフェイスブックでこの映画のことを広めてください。

私にはそれしかないのです。」

最後に想田さん印象的なことを口にされました。

地元が貶められたからと云って腹が立つわけじゃない。事実は事実です。

でも、事実に対して身を切るほどの誠実さが優しさなのだと思います。

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