サタン タンゴ in 立川

2019 年 9 月 24 日 火曜日


1994年発表された、タル・ベーラ監督のモノクロ映画「サタンタン

ゴ」構想9年、撮影2年、編集2年、上映時間7時間18分。

22日、渋谷イメージフォーラムに着いたのが上映開始40分前。切符を

求めたら売り切れ、翌日の23日分も完売。予約は3日前から。舐めてい

たと云えば舐めていました。あの「ニーチェの馬」の監督で7時間越えの

映画を観たいと云うモノ好きがそれほどいるとは思えませんでした。それ

で昼間っから酒飲んでつまらない連休仲日が静かに終わったのでした。し

かし二日連続満員と云う事実は、脳裏から消し去ることは出来なかった。

いろいろ読みました。探しました。イメージフォーラムで買った映画のパ

ンフレットも読んでおりました。22日のあの昼前から私の「サタンタン

ゴ」は始まっていたのです。立川の高島屋の8階のキノフィルムでやって

いるようです。ネット予約が在りません。前売りを買った人しか席は確保

できていないようです。つまり残りの席は速いモノ順です。ここに中りを

見据えました。攻める方向は、正面玄関からのエレベータダッシュが先ず

順当な正攻法。しかし大の大人がたかだか映画ごときで修羅場を演じるの

は無粋です。サタンタンゴに相応しくない、だってもう始まっているので

すから。複数のガードマンさんにいろいろリサーチしたところ、一番早く

入れるのは地下二階の駐車場から上がるエレベーター。余裕で切符買って

いたら後ろから怒涛の人波が押し寄せてくるのでした。さて映画です。

陰鬱なハンガリーの寂れた農村の牛舎が開き、牛が放牧に放たれると云っ

ても街中をうろつきあまり多くない草を探しながら歩き回る処から映画は

始まります。発情したオス牛が何頭かのメス牛の腰にしがみ付くけど、用

意できていなければ相手にされることは有りません。頭で数を数えていま

した。最初のワンカットで5分です。最初のワンカットで出てくるのは、

動物だけです。牛、豚、鶏。冷たい雨がずっと降り続けます。出演者はそ

の雨に打たれ続けます。まるで罰の様に。3番目のカットでは、部屋の真

ん中に水を張られているたらいが置かれていて、少しするとスカートを纏

った女性がしゃがみこみ、性器を洗います。とても長く念入りに洗います。

今から語られるのが、欲望であり、私たちの生い立ちに関することだと

云う事が露わになります。全部で150カットで映画は構成されています。

ダンスのシーンでも、歩き去るうしろ姿でもしつこい位にカットが長い。

書物で云うと余白ですね。映画に参加する事を強制させられるのです。そ

して、敢えてヒントは極力少なくして哲学することを強いるのです。イリ

ミアーシュは、何処から見ても悪党なんですが、なんとなくイエスを感じ

させる風貌でここでも我々を煙に巻く。猫いらずの少女が圧巻でした。

7時間は割と早くすぎましたが、腰が痛かった。イメージフォーラムでパ

イプイスだったら用意出来ると云われましたが断って良かった。東京に出

て来たばかりのころ3本立ての映画を良くみていました。はしごしたこと

も在りました。全12時間。後半の3本がロシア映画特集で「戦艦ポチョ

ムキン」と「イワン雷帝」ともう一本が何だったか忘れてしまいましたが

夜、10時過ぎによたよたしながら三鷹の映画館を出て来たけど、何故か

頭の中は凄く興奮していたことを、まざまざと思いだしました。

社会主義、全体主義、密告、盗み見、詐欺、耽溺、依存、裏切り、弱者の

連帯、虐待、自死、諦念、つかの間の夢、離散、罰、原罪、酒、煙草、酒。

サタンにタンゴを踊らされている、6歩前に、6歩後ろに。


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